水島くん、好きな人はいますか。

・旅立つきみへ



水島くんが転校したことは、夏休み明けに担任がクラスメイトに話してから一気に拡まった。


落胆する大勢の生徒の中で、最後まで騒々しくさせた人だと笑い合えたのは、わたしたちだけだろう。


2泊3日のサマーキャンプを終え、解散してから2時間後のとあるマンションが、本当のお別れの場所になった。



「こんっのバカ京!!!」


自家用車のトランクを閉めたばかりの水島くんが、大きく目を見開いた。けれどすぐに破顔したことに気付かない瞬は、左右に首を振りながら車に近づく。


「はー俺まじで天才だわ。この勘のよさを称えろクソ京」

「はははっ! なんで瞬と万代がおるかや!」

「笑ってんじゃねえよ! 俺らがバスでぐーすか寝てる隙にさくっと帰りやがって!!」

「幸せそうに寝ちょったなー」

「起こせっつーの! おかげで追いかける羽目になったじゃねえか!」

「瞬、まず落ち着いてほしい……」


水島くんの向こう側に立っている人、あきらかに度肝を抜かれているお父さんだよ。水島くんにそっくりだもん。


ぺこりと頭を下げると、おじさんも軽く会釈して微笑んだあと、運転席に乗り込んだ。


水島くんはちらっとおじさんを見遣ってから、わたしたちに笑いかける。


「よく今日だってわかったな」

「だから俺の勘のよさを称えろって言ってんだよ」

「なんでも自分の手柄にしようとすんなや。どうせ担任から聞き出したんじゃろ」

「ハイざんねーん。勘だけで来たんだよ。俺をナメんな」

「……本当だよ」


わたしに否定を求めた水島くんは「嘘じゃろぉ!?」と声を張った。
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