地味子の秘密 其の五 VS闇黒のストーカー


「少しだけね。昔、じいちゃんと行ったパーティーで滝本社長に会った時に……」


杏樹の問いに答えると、早和が目を輝かせる。


「本当にかっこいい!! 今度、正月の集まりの時に連れてきてよ!」 

「えぇ~~」

「いいでしょう~? おねが~い」


渋る杏樹に、懇願する早和。

楽しい光景に、笑みをこぼす。


「陸に会ってどうするの?」

「色々聞きたいの! こんな美人の杏樹ちゃんをどうやって落としたのか!!」

「はァ~? どこが美人? 地味子の間違いでしょ?」

「これだから天然は~~!!」


ワイワイと盛り上がる孫たちを横目に、ふと月を見上げる。


まさか、あの滝本さんの御子息が、杏樹の付き合っている人とは思わなかったわ。


でも月夜の縁側で、こうやって話せることが、なにより楽しく感じられた。

夢だったのよ。

あなたが、私のところに来て、こうやって時間を過ごすのが……長年の夢だった。


相変わらず、私の隣で「ばあちゃんの方が天然でしょ!?」などと言っている杏樹。

それに対して「ばあちゃんも天然だけど、杏樹ちゃんもだよ!」と、返す早和。


実はね、この家にいる、翠の娘、早和も……心配なのよ。

この子も、一応陰陽術は使える子だから。

杏樹と比べたら、力は全然違うけど……それでも、あの子も自分の力を気にして、周りと距離を置いている。

仲のいい子はいるみたいだけど……彼氏はいないのよね。


「あとは……早和ちゃんか」

「「え? ばあちゃん、何か言った?」」


独り言のように呟いたから、孫たちには聞こえていなかったらしい。

そうね、この子にいい人が現れたんですもの。

神崎家最強の術者になるであろう……この孫に。

一族以外に、異性の理解者がいるかどうか心配だったけど、いたんだから。

だから、早和も、きっといい人が現れるわ。

その時まで、また待ちましょう。


「何でもないわ、大丈夫よ」


ニッコリと微笑んで、そう返す。


そして、楽しい夜は更けて行ったーーー。





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