隻眼金魚~きみがくれた祈りのキス~
「どう、気持ち悪いの落ち着いた?」

「うん……だいぶ」

 ミナトさんは、トイレで吐くあたしの背中をさすり、ポカリを買って来て、ハンカチを濡らして顔を拭いてくれ、せっせと世話をしてくれた。ここ女子トイレなのに。お礼の言葉も見つからない。ていうか、恥ずかしい。

 映画館スタッフも来てくれたんだけど、ミナトさんが居るから「ご用がございましたら呼んでください」と言って、戻って行った。

 エントランスの長椅子に少しだけ横になって、休んだ。だんだんと楽になっていく。

「寝不足だった? 疲れてたとか。スクリーンにちょっと近かったかなぁ」

 色々言ってるミナトさんだけど、あなたが悪いわけじゃない。あたしが悪いんだ。

「すいません、ほんと。映画の途中だったのに」

「いいよそんなの。また来ればいいじゃん」

 また……か。また映画館か。

「そう、ですね」

 生返事はバレただろうか。映画、3Dなんかもう観たくはない。だって、3Dで見えないんだもの。もう観たくないし、観られない。自分が、他と違うって思い知らされる。

「今日は、帰ろっか。また具合悪くなったら困るし」

「え……」

「気にすんなって。具合悪い時は無理しないこと。分かった?」

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