隻眼金魚~きみがくれた祈りのキス~
「あっはははは!!! え? で? 吐いたの!?」

 ちょーウケんすけど、と笑っているのはヨウコちゃん。笑いごとではない。

「笑い事じゃないんだって~」

 そう、初デート、映画館で吐いた女の話をしているところ。
 今日は、仕事帰りにヨウコちゃんと買物に出掛けている。合間にお茶。夕飯時というわけではないので、店内はさほど混んでは居なかった。

 でも、ちょっと。ヨウコちゃん声が大きいってば。笑いすぎ。

「笑いすぎだよー……ヨウコちゃん」

 すると、ビシ! とヨウコちゃんの人差し指があたしに向けられた。

「ちゃんと目のことをミナトさんに言わなかった、あんたが悪いんでしょ」

 さっきまでの爆笑はどこへやら。真顔になっている。

「え……えと」

「隠したってどうせダメだよ。実際に目にハンデあるんだから」

 返す言葉がない。そう、言わないあたしが悪い。

「言えない気持ちは分かるけど、黙ってても良いことないでしょ。ミナトさんに失礼だよ。せっかく詩絵里を気にかけてくれてんのに。実際、迷惑かけちゃったじゃん。目が悪いって分かってたら、ミナトさんだって映画館自体に誘わなかったよきっと、そう思うでしょ? どうなの言い返してごらんよ」

 やだもう泣きたい。ヨウコちゃんに完膚無きまで論破されてしまって。すいません。
 もっと知りたい、って言われて、デートに誘われて。普通の女の子だったら、嬉しいこと。浮かれてたあたしも悪い。
 ミナトさんは優しいし、すらっと背も高くて、爽やかな人だし。文句なんか付ける所がない。

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