隻眼金魚~きみがくれた祈りのキス~
「あっちはもう詩絵里に惚れてんね」

 ヨウコちゃんは腕組みをして言う。あたしの中での一番重要なことは知られたくない。でも、そんな虫の良い話なんか無い。

「……怖いんだもん」

「……今すぐじゃなくてもさ、いつかは言わないといけないでしょ」

 沈黙。ありがとうございましたーと店員の声。

「いっつも、ごめんね。あたしグズグズ言ってばっか」

「いまさらだわぁ~詩絵里」

 ヨウコちゃんだって、彼氏と色々あるはずなのに。聞いてもあんまり言わないんだよなぁ。
 少し、話の方向を変えたいと思ったあたしは、別な話題を振る。

「ヨウコちゃんは? 彼氏とはどうなのよ」

「まぁね、仲良くやってるよ」」

 少し、恥ずかしそうにしている。幸せそうだなぁ。それを見ているだけで、心が温かくなった。

 幸せになりたいだとか、誰かと一緒に暮らして行きたいとか、そういうことを願っちゃ罰が当たるんだろうか。
 蓮に、ずっと酷いことをしている。分かってる。蓮は黙って今までそうしてきたし、あたしもその蓮を黙って見てる。

 でもそれも、そろそろ終わらせる時が来てるんじゃないか……頭の隅で誰かが言ってる。

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