隻眼金魚~きみがくれた祈りのキス~
「その……詩絵里が怪我で入院してた時さ」

 蓮は、点滴がポツポツと落ちるのを眺めながら言った。ベッドの隣のパイプ椅子に座っている。「怪我で」と言う時の深く傷付いたような顔。今まで何度見ただろうか。自分のせいで怪我をさせてしまったことを思う蓮の顔。

「俺、お見舞いに行ったんだよ。母さんと一緒に」

 なんだか病室の薄暗さに溶けてしまいそうな蓮の声だった。

「面会謝絶で会えませんって言われて。仕方なく帰って来たんだよね。花だけ預けて」

「知ってたよ。お花届いたもん」

 入院した時のことを思い出していた。あの時のお花だって、覚えている。

「蓮が来たけど帰ったって聞いて、駐車場が見える所まで連れてけって看護師さんにワガママ言ったの」

 蓮が来たと聞いて、なんで帰したのって怒ったんだあたし。

「呼んだんだよ大声で。蓮って」

 看護師さんにも呼んでって頼んだっけな。泣きながら大声で呼び続けたけど、一度も振り返らずに、蓮は蓮のお母さんと一緒に小さくなって見えなくなった。そう聞いて、蓮が少しだけ笑った。

「そうだったんだ」

 こんなことも、言わないでいままで来た。大人になった。

「……うん」

 やばいな。蓮の顔を見ていたら泣きそう。あたしは頭まで布団をかぶった。

「しー」

 蓮が、小さくあたしの名を呼んだ。返事はしなかった。だって布団をかぶっていたから。

「……ごめんな」

 小さい声。

「ごめんな……ごめん」

 繰り返す謝罪。声が震えていた。蓮の「ごめん」が、胸に食い込んでねじ込まれる。

「ごめんなさい」

 急に2人が小学生に戻ったような錯覚。蓮が声を殺して泣いているのが分かった。聞きたくなくて、あたしは寝たフリをした。


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