隻眼金魚~きみがくれた祈りのキス~
 電話を切ったあと、蓮が先日置いていった柿を剥く。また、実家から送られてきたらしい。いらないとは言えないので受け取ってそのままになっていた。皮を剥く時、ぬるぬる滑ってイライラしたけど。
 柿は「ぼく、秋の味覚です」っていう自己主張の割にはっきりしない味で、半分食べて飽きてしまった。
 柿のせいで寂しくなってしまって、蓮に会いたかった。熱が早く下がればいいなと思う。涙が出そうになって鼻がツンとする。お前のせいだ、柿。オレンジのお前。

 金魚は水槽の中をゆらゆらしていた。水の透明感と派手な赤。綺麗だなと見とれて、あたしもああなれたらいいのになと、ぼんやりと眺めていた。赤くて、誰にでも気付いてもらえる存在。

 **

 風邪っぴきの蓮が心配になったので、次の日あたしは蓮の好きなメロンパンを買って(コンビニのだけど)彼のアパートまで来た。

 ドアの前でもじもじ。なんで今更もじもじなんだろう。バカみたい。何度も来ているのに。ためらいながらインターホンを押す。……返事が無い。居ないのかな。
 日曜日だから蓮は休みのはず。寝てるか、元気になって出かけてるのかも。
 帰ろうと踵を返した時、ガチャッとドアが開いた。そして髪の長い女の子。え? 誰?

「詩絵里さん?」

 えええ、だから誰!

「理名です。覚えてませんか? 妹です」

「あ」

 思い出した。蓮の妹。引っ込み思案で人見知り。蓮と遊ぶ時に誘ってもママの後ろに隠れているような、そんな子だった。

「入って」

「どうぞ。お茶でも飲んでってください」

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