妖魔05~正道~
千鶴は戦いに向いていない。

最初から解っていたのに、俺の責任で廃墟まで来てしまった。

「ごめんな、千鶴」

千鶴は首を振る。

まだ痛みで声は出せないらしい。

しばらくして、俺達は支障はないくらいに回復する。

途中、吟がフラつきながら、魔術を切り地面に倒れ込もうとする。

俺は吟を急いで支える。

「無理をさせた」

「そう思うのなら、後でお腹いっぱいにさせるアル」

「解った」

しかし、回復だけで、魔力が尽き果てるほどに疲労が積み重なるだろうか。

可能性としては、俺の体の中にいた郁乃母さんの思念体に魔力を使ったと考えてもいいだろう。

郁乃母さんの気持ちはどうだったのだろうか。

もっと俺の中で生きていたかったのか。

それとも、あの時に俺達を救った事で、喜びを得られたのか。

最後の笑顔を見たところで、本心は郁乃母さんしか知らない。

どちらにせよ、吟は自分の娘に対して、本当の死を与えた事になる。

辛かっただろうな。

吟の肩を抱きながらも、色々と考えてしまう。

気付けば、傍にロベリアが立っている。

「王子様、ごめんなさい。今まで私の記憶がないばかりに」

「いや、気にするなよ。お前も色々と大変なんだって、お前、記憶が戻ったのか」

喋り方がある程度普通になっており、内容も記憶が戻ったかのような言い方だ。
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