ママ、こんなに軽かった?
軽くなった母
 はもっ。はもはもはも。んごきゅっ。
「うっ」
 うっまーい。なにこれちょっと。って、イクラ? 食べたことないよー。なにこれげきうまじゃん。てゆか、いつものメンタイはどうしたのよ。焼きメンタイにぎりは。
「おかえりなさーい」とゆって、エステサロンの香りをさせながら母が帰ってきた。おかえりなさいはこっちのセリフ。
「ねえ、ママ。今日のメンタイ…… 」
 母が口に何物かわからない物体を口にくわえて広いキッチンから振り向く。正直、怖い。
「ただいまは」高圧的に変なことを要求される。
「た……ただいま。ってそうじゃないでしょ」
「お疲れ様」母の目が光る。ほとんどホラーだ。
「お……疲れ様です。て、あのー……」
 がさがさと買ってきたスーパーの袋の中身をかき回しながら、母はくわえていたぶ厚いせんべいをばりっと噛んだ。うまいのか? 私なんてかみ砕くのに精一杯で味なんかろくにしないのに。
 その上、母がしっかりかかえたせんべいの袋には『激辛』と書いてある。錯覚だと思いたい。
 私はデブで運動嫌いだけど、そんな食べ方はするまいと思う。まるで病気みたいだ。
 昔、ちびっ子だった頃、言ってみたんだ。
「ママはすとれすなの?」って。いやな娘だ。
 そうしたら、母は母で、かる~くいなすんだ。
「ストレス? ママはママよ」
そう、吹っ切ったように言った。すがすがしかった。その頃からだったような気がする。
 母のようになりたかった。吹っ切れたかった。すがすがしく。けど、結果は無惨に私の躰をむしばんだ。
 糖尿、肝脂肪(要するに肝臓が霜降りに)
過呼吸、心臓(お医者には精神的なものといわれた)ぜひぜひダイエットしたら良いでしょう、だって。その頃初めて自分が醜いって思われてるって知った。
 大好きだった服が着られなくなったとき、わんわん泣いた。ファッション誌などを見るたびむなしくなった。どこへも行きたくなくなった。それは太ったからではなくて、太った私を見るひとの目が変わったからだ。
 家に閉じこもってしばらく、いい加減にしておけ、と医者に連れて行かれた。母は後で車で迎えに来るからと、仕事に行った。

「あの、この結果では、あの、ちょっとしか知りません……メタボってやつですか?」
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