才能に目覚めた少年
「お兄ちゃん、この人たちは家族なの」


僕は彼女の話に耳を傾けた。

答える必要はない。


「強い力だね。でもまだ扱いきれてないね。どんな能力なの」


「…」


「教えてくれなくてもわかるんだぁ。『選択』でしょ」


「…」


「そうだよね。
ここまで来るときにお兄ちゃん見てたけど、使いたい能力を選んでたもんね」

「…」

「でも、その能力弱点が二つあるんだよね。
見ていた限り、お兄ちゃんが知らない能力は使えないのとコントロールできていないんだよね」


「コントロールならしているよ」

僕は不思議な少女に答えてしまった。


「能力じゃないよ。精神面でだよ」


「精神面…」


何を言っているんだろう。

意味がわからない。

僕はこうして意識を持っているじゃないか。


「お兄ちゃん、どんな気分」


「世界のすべてが僕であるように感じる」


「そうだよね。見て思ったとおりだね」


「…」


「お兄ちゃん、これから何がしたい」

「…」


「いろんなものを壊したいんだよね。
能力がどれぐらいの力を持っているのかを知るためにね」

「…」


「でも、止めておいた方がいいよ。世界が壊れちゃうから」


「どうしてわかるんだ」


「わかるんだ。それが私の能力だから」


「なら、教えてほしい。僕はこれからどうすればいい」


「簡単なことだよ。
今は能力が目覚めるには早いんだよ。
だから目覚めてないことにすればいいんだよ」


「どうやって」


「記憶を消せばいいんだよ」



「…そうか」



僕は考えた。


この少女の言っていることはすべて的中していた。


僕がすべてを破壊したいことも。


でも今は理性を保っていた。


いつ理性がなくなるか分からなかった。




僕は決断した。彼女を信じよう。


僕は記憶を消すことを『選択』した。



消す前に一つだけ聞きたいことがあった。


「君の名前は」


少女は微笑みながら答えた。





「『藤沢ナナミ』」
< 53 / 116 >

この作品をシェア

pagetop