傷跡
『杏奈ちゃん店ちょっと寄っていきなよ。金は俺付けでいいからさ。日曜まで待てないっしょ?光輝もびっくりするだろうし顔出してあげよーぜ』
『いえ…今日は帰ります』
『いーからいーから!光輝も絶対喜ぶからさ』
あたしは何度も断ったけど、アースさんの押しに負けて結局アースさんと一緒にお店に向かった。
そして…
お店に入るとアースさんは優しく席にエスコートしてくれ、あたしの隣に座ってくれた。
誰もあたしだとは気付いてないようで、薄暗い店内にいるあたしは、周りから見ればアースさんのお客さんに見えていたと思う。
でも…
『杏奈!?ちょっ、お前何してんだよ』
突然少し離れた席から大きな驚いた声をあげると、光輝がこっちに向かってきた。
『さすが光輝、彼女の顔はすぐ分かるんだな。あ、杏奈ちゃんな、お前がイケてない男だから俺にのりかえるんだって。な?杏奈ちゃん?』
アースさんはそう言うと、光輝に見えないようにあたしにウインクをしてきた。
あ、冗談か…。
あたしはアースさんのその冗談にのって、笑顔でうんっと頷いてみた。
『ちょ、ちょっと待って下さいよ。嘘でしょ?おい!杏奈嘘だよな?』
オドオドと慌てる光輝を見て、アースさんは一人で大爆笑していた。
『バーカ!当たり前だろ。お前もまだまだ青いよなぁ。ちょっと座ってろ。お前の客俺が相手しててやるから』
そしてそう言うと、アースさんは光輝の座ってた客席へ向かい、そこに座るとお客さんと楽しそうに話を始めていた。
『つーか何で代表と一緒なの?マジで口説かれたりとかしなかった?何もされてない?』
あたしを見つめながらこんなに心配そうにする光輝の姿はなんだか初めてだった。
だから…なんだかちょっぴり嬉しかったんだ。