傷跡


『確かにナンバーワンはカッコイイことだよ?でも…その1番のために自分を失ってしまったらどうしようもないじゃん?光輝が何のためにナンバーワンでいたいのかは分からないけど…自分をちゃんと持ってないとただの人形と同じだから』


『…――――』


『光輝の目…今は死んでるみたいに…心を持ってない人形みたいに…冷たい目をしてる。自分では分からないでしょ?』


『俺は……』




あたしが言ったその言葉を聞いて、光輝がやっと口を開いていった。





『俺は…怖いんだ。自分の場所がなくなるのが。居場所が…なくなってしまうのが』



『居場所って…杏奈は作ってあげれられてなかった?光輝にとっての安心できる場所、ずっと一緒にいたのに…作ってあげれてなかったの…?』



『違う……そうじゃないんだ。俺は…親父が…………たから……っ…』




肝心なところが全然聞こえてこなかった。




『ごめん、聞こえなかった。何て言ったの?』




『いや…いい。もう…ごめんな…』




光輝はそう言うと―――


一方的に電話を切ってしまった。




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