世界を敵にまわしても


「俺は、新しい恋が始まる曲に思えるよ」

「……」


先生は掴んだままだったあたしの手を引いて、距離を縮めてくる。


突然グッと近付いた距離に、心臓が破裂するかと思った。


「な、何で……そう思うの」


バクバクと鳴る心臓が、先生にまで聞こえてそう。だって、笑顔が少し意地悪く感じる。


「何でって……始まったし、ね」


引かれた手に先生の指が絡まって、自分の顔が熱くなるのが分かった。


世間では恋人繋ぎと言われるそれが、今のあたしには物凄く恥ずかしくて。パクパクと動くだけの口はうまく機能しない。


「くっ……顔真っ赤」


最悪だこの人!!

もうヤダ!自分の顔がバカみたいに赤くなるのもヤダ!


悔しくて手を離そうとしても、先生はニヤニヤと笑って離してくれない。


「ちょっと、もう!」


力一杯自分の手を引き寄せると、逆に勢いよく引かれてしまった。


急に視界が暗くなって、あたしの体を包む大きな腕に力が込められる。


抱き締められたんだと理解するのに時間は掛からなくて、触れ合う体に今までで1番ドキドキした。


先生の顔がわずかに動いて、あたしの頭に擦り寄るのが分かる。



「好きだよ」

「……」


耳元で囁かれて、ギュッと抱き締められて。あたしは先生の胸元を掴んで顔を埋めた。


もうほんとにヤダ……。


あたしは今日だけで、何回泣かされるんだろう。

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