世界を敵にまわしても


「……先生」

「何でしょう」

「……好き」


くぐもった声だと自分で思いながら、それくらいがちょうどいいと思った。


一度好きだと怒鳴っておいて、今更だけど。恥ずかしものは恥ずかしい。


鼻をすすると、先生の腕の力がゆるむ。お互いゆっくり離れて、あたしはまだ顔に熱を残したまま、微笑む先生を見上げた。


「知ってる」

「そうですか……」


ニコニコと笑う先生を見てると、気が抜ける。

でも、あたしも先生の笑顔が好きだ。ずっと笑っててほしいなと思う。


「高城」

「何でしょう」


あ、いつもと逆だ。


そう思うと、先生の指先が目元に残っていた雫をすくい取る。


その手つきがあんまり優しくて、また頬を染めてしまいそうになった。


……愛しさを含んでると、思ってもいいのかな。


あたしに触れる指先にも、あたしに向ける笑顔にも。



「俺と恋、してくれますか」


クサイ。


けど、華が咲いたみたいに心の奥から嬉しさが拡がる。


「喜んで」


そう微笑んで言えば、先生も満面の笑顔をくれた。


幸せ。

信じられないくらい幸せで、嘘のようで。


だけど笑顔も込み上げる愛しさも、確かに本物だった。
< 190 / 551 >

この作品をシェア

pagetop