世界を敵にまわしても
「もういいっ! 帰る!」
真っ赤であろう顔を1秒も見せたくなくてドアを開けると、「美月」とまたズルイ呼び方。
名前を呼ぶ声に愛しさを載せるなんて、どんな技だ。
「おやすみ」
「お、や、す、みっ!」
吐き捨てるように返すと、先生はまた零れるような笑顔を見せた。
それを横目で見ながらドアを閉めて、あたしは大股で歩き出す。
ズルイ、せこい!
不意打ちなんて有り得ない。まんまと引っ掛かったのがもう、悔しくて堪らない。
額を覆っていた手に込められた力を緩めて、歩く速度も落とす。
「……」
でも好きだ。
好きで、好きで、堪らない。
額に落とされた唇の温もりもその感覚も、ギューッと胸を締め付ける。
胸のずっとずっと奥。
触れられない場所が痛くて苦しくて、でも嫌じゃない。
先生の声や仕草や笑顔ばかり浮かんで、悲しくもないのに涙が滲む。
そんな状況の中で、あたしはずっと先生のことを考えていたかった。