世界を敵にまわしても


「ゴメン。興味ないよね」


行きたくないよな、多分。

そう思ってチケットを取ろうとすると、先生はサッとあたしの手から逃げた。


「あるよ?」

「え……でも」

「凄いな宮本の両親。団員なのは知ってたけど、このチケット中々手に入んないよ」


そんなに凄い人なのか、晴の両親。ていうより、このコンサートも凄いものなの?


「今月末か……うん、大丈夫」

「行くの?」

「もちろん。美月の誘いじゃ、断れないでしょ?」

「……からかわなくていい」


わずかに振り向いて睨むと、可笑しそうに笑う先生。


「ありがとう。嬉しいよ」

「ならいいけど」


パッと視線を前に戻すと、先生はクスクス笑いながらチケットを封筒に戻す。


首筋に掛かる先生の髪が、くすぐったい。


「やー。嬉しいな。デートの誘いって」


おちょくってるよね、完全に。


「嬉しい」

「分かったから!」


ギュッと抱き締めて来る先生から、ひしひしと伝わるオーラ。


まるでドピンクのハートを投げ付けられてるような、そんな感じがする。


あたしを抱き締める腕や、伝わる体温も紡がれる言葉も、体中全部で好きと言われてるみたい。


耐え切れず「帰らなきゃ」と言って先生の腕から逃げたあと、あたしはマグカップをいそいそと片付けた。
< 268 / 551 >

この作品をシェア

pagetop