世界を敵にまわしても


『もしもし? 着いた?』


先生の声に混ざってガヤガヤとした声が聞こえる。


「着いたけど、もう中に居る?」

『あ、うん。今どの辺? 俺そっち行くよ』

「多分正面入り口のまん前……あ、すみません」


入口付近で立ち止まって辺りを見回していると、優しそうな老夫婦にぶつかりそうになった。


頭を下げると、電話越しで先生が笑っている。


『……ふっ。キョロキョロし過ぎるから』

「……見えてるの?」

『うん。黒いワンピースに……白、や、ピンクのジャケット羽織ってるでしょ』


当たってる……。


入口から中へ入ると、待合ホールは人でいっぱいだった。


こんな中からよく見つけられるなと感心していると、『「美月っ」』と、電話越しと直接的な先生の声に、あたしはそちらへ顔を向けた。


右側にあった階段から先生が降りてきたところで、あたしはその姿に目を見張る。


「良かった。迷うんじゃないかと思ってた」


あたしの目の前まで来た先生の服装は予想通りというか、スーツにも見える格好だったけれど。


トレードマークと言ってもいい長めの前髪と、眼鏡がない。
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