世界を敵にまわしても


「誰?」

「ふはっ! 俺です」


いや、そんな事は分かってるけど。よくよく見ないと先生だって分かんないと思う。


「眼鏡ないだけで、だいぶ変わるんだね」

「そう? まぁ、変な感じはするけど」


眼鏡を掛けない裸で切れ長い瞳には、いつもより感情をよく映ずりそうだ。


というか、眼鏡越しじゃないだけでやたら目を合わせる事に緊張してしまう。


「前髪ない先生、久しぶりに見た」

「ちょ、あるから!」

「分かってるよ」


あたしの家に成績表を持ってきた時以来じゃないかな。


あの時は真ん中で分けてただけだけど……。今日はワックスか何かで前髪全体を後ろに流している。


数本額に垂れる黒髪が大人っぽい。サイドの髪も耳に掛けられて、シャープな輪郭が丸見えだ。


悔しくなるほど、綺麗な顔をしてる。


……あれ?


「ピアス開けてたの?」

「え? あぁ、学生の頃ね」


先生は恥ずかしそうに耳朶を触って、腕時計を見た。


「あと5分で入場できる、かな」


辺りを見渡す先生の両耳に一つずつ、ピアスホールを閉じた痕があるのが意外。


想像付かないな、ピアスをしてる先生なんて。
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