世界を敵にまわしても


ザワザワしていたコンサートホールが、開演の知らせによって徐々に静かになっていく。

腕時計を見ると、ちょうど午後5時。


客席の照明が暗くなると、すでに譜面台や椅子が並ぶステージの左側から、奏者たちが各々の楽器を持って出てくる。

……いきなり始まるものなのかな。


周りに合わせて拍手をしながら、目だけ動かして右に座る先生を盗み見た。


あたしと違ってドキドキしてない、落ち着いた表情。真剣とも言えるし、楽しげでもあるかな? 暗くてよくわからない。


パラパラとやんでいく拍手にあたしも手を止めて、脚の上で両手を組んだ。


やっぱり説明などは、ないらしい。


オーケストラの人たちが椅子に座ると、ヴァイオリンを持った女性が袖から出てきた。


……あれ、って……。


「宮本のお母さん、ファーストヴァイオリンの首席奏者だね」


目を凝らしていたあたしに向かって、ポソッと先生がつぶやく。見ると、先生は微笑んで再びステージに視線を戻した。


……ヴァイオリンの首席奏者って、たしか女の人はコンサートミストレスって呼ばれるんだっけ?


晴のお母さんってすごいんだな。
< 280 / 551 >

この作品をシェア

pagetop