世界を敵にまわしても


「……で、どうかしたの?」


晴に連れてかれるがままに辿り着いたのは、軽音部の部室だった。


しとしと降り始めた雨を見上げてから、隣に立つ晴に視線を移す。


「この前の金曜だったろ? コンサート、どうだった?」

「は?」


それだけ? ここまで来る必要性ってあったんだろうか。


「いや、コンサートってか! 氷堂さんの演奏、どうだった?」


その名前を聞いた瞬間、体中の血がざわついた気がした。


何で晴が……いや、知っててもおかしくない。用事がなかったらコンサート行くって言ってたもんな。


「……凄かったよ。素人のあたしが、感動するくらい。演奏終わったあと、スタンディングオベーション」

「うわー! やっぱり! 親にも聞いたんだけど、その日すげー調子良かったらしくてさー。マジ生で聴きたかった!」

「……好きなの? 氷堂さん」

「ピアニストでは1番!」


1番、か。

きっと零さんは何をとっても先生の中で1番なんだろうな。


「って違くて! いや、それも聞きたかったんだけどっ」


晴はそう言うと、急に真面目な顔になる。途端にあたしは先生とのことがバレたんじゃないかと焦った。


「ちょっと待って、座って!」


晴はそう言いながらあたしの両肩を掴んで、下に押す。


仕方なくされるがままに腰を下ろすと、晴も同じようにしてあたしの顔を見つめた。
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