世界を敵にまわしても


「……な、何?」


バクバクと鳴る心臓が、晴には聞こえませんようにと願う。


「あのさ、美月俺の両親の仕事は知ってるじゃん。だから、俺クラシックも好きでさ。それで氷堂さんと親も知り合いなんだけど」

「……うん。まぁ……そうじゃない? 晴のお母さん、首席奏者だったよね」

「あー、そっか。プログラムに書いてあったな」


晴はそう言いながらズボンのポケットに手を突っ込んで、少し目を伏せた。


「んで、話戻すけど……親が氷堂さんとこんな話したーって、この前も聞かせてもらったんだけどさ」


ドクン…と一際大きく鼓動が鳴る。


コンサートなんだ。終わった後に打ち上げくらいあるだろう。そこで出演者同士話すことは、何も不思議じゃない。


「晴……」


あたしと先生の事、氷堂さんが話してたの?


そう訊こうとする前に、晴が何かズボンのポケットから取り出した。


「昨日、親に聞いてさ」

「……」


晴が差し出してきた紙切れに、あたしは目を見開く。


「すげービックリしたんだけど。つうか、マジで!?って叫んだし」


あたしは晴から紙切れを受け取って、それを一心に見つめた。


「話聞いて、それ超探したんだ」

「……これ、いつ頃の?」

「あーっと……多分3、4年前くらい」


ジッと紙切れから目を離さないあたしに、晴は不自然に咳き込んで話を続ける。

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