世界を敵にまわしても


……あせっちゃダメだ。頭を空っぽにして、見えてくる単純な想いを、言葉にするだけでいい。


先生が何も言わないなら、あたしが言えばいい。不安でも、怖くても、伝えればいい。伝えたい。


「先生……あたし今日、先生に逢いに行くつもりだったの。今、言うから……これが最後だから、聞いて?」


ギュッと、先生の腕をつかんでいた手に力を込める。


「……先生が、零さんと一緒にいるのは嫌。あたしの隣にいてほしいの」


だけどもう、追い掛けない。逢いにいったりしない。


「先生……全部、思い出して。あたしと過ごした時間全部。あたしが言った言葉も、送ったメールも、電話の内容も全部」



あたしも思い出すから。全部、何もかも。そしたらあたしはもっと、今よりもっと、先生を好きだと思うよ。


腹立つこともあったけど、たくさん泣いたけど。それでも誰より先生を想う。


先生。

あなたもあたしと同じだって、信じていい?


先生と出逢ってからの時間は、放課後の音楽室で過ごすふたりだけの時間は、本当に本当に幸せだったから。


つかんでいた先生の腕から手を離して、愛しい存在を見上げた。


「……待ってる」


だからもう追い掛けない。逢いにも行かない。


だから今度は先生が追い掛けて。逢いに来て。出来れば1秒でも早く。


「……先生。あたしは教師でもピアニストでも、朝霧奏が好きだよ」


嘘偽りない姿であればそれでいい。


自分の気持ちに正直であれば、それでいいの。


「今度、偽った姿であたしの前に現れたら嫌いになるから」


目を見開いた先生に、あたしは涙目で微笑んだ。


だからきっと、迎えにきて。


先生もあたしと同じ想いだって信じてる。



ずっと、待ってる――…。




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