世界を敵にまわしても
「夜分遅くにお伺いして申し訳ありません。美月さんの高校で教師をしております、朝霧と申します」
二コリと笑う朝霧先生の意図が、全く分からない。
音楽担当で臨時だとも言わず、何しに来たんだろう。
「まぁっ……先生でいらっしゃったんですか? ウチの美月が、何か失礼なことでも……」
パタパタと駆け寄る母の声は上擦っていて、あらぬ事を考えて内心焦っているんだろうけど、あたしは別に悪い事はしてない。
「ああ、違いますよ。美月さんの忘れものを届けに来ただけです」
「わ、忘れ物……ですか?」
「はい。大切なものなので、お母さまも拝見したいだろうと思いまして」
「私ですか?」
まさかと、思った。
朝霧先生が鞄から取り出したものが母親に差し出されるまで、あたしはそれを黙って見ているしかなかった。
何も言えなくて、体さえ動かなくて。
朝霧先生が持つ白い紙に、目を奪われていたから。
「美月さんの成績表、お気になさってましたよね? それだけ良い結果ですし」
グッと眉を寄せて、息を飲む。
「ぜひ褒めてあげてください。断トツで、トップですから」
熱くなる目頭に、あたしは俯いてしまった。
……先生。
何しに来たの。
何でそんなこと言うの。
あたしが自分で成績表捨てたの、知ってるじゃない。