CHANCE 1 (前編) =YOUTH=
俺は、平然を装おって喋っているが、心臓はバクバクいってるよ!
ヒカルちゃんに、聞こえるんじゃないかってくらい、心臓が暴れてる。
初めてな訳じゃないが、ヒカルちゃんは特別な人だから…。
海を見ながら、フランス料理のランチコースを堪能して、その店にあるウッドテラスに出てみた。
春風に、潮の香りがブレンドされ、俺達の間をすり抜けて行く。
お店のマダムが、ニコニコしながらやってきて、俺達の2ショット写真を、ヒカルちゃんのデジカメで撮ってくれた。
店内に戻ると、シナモンケーキとアップルティーが用意された。
『サービスですので、よかったらどうぞお召し上がり下さいね。』
「ありがとうございます。」
とっても香りの良いアップルティーと、ちょっぴり懐かしいシナモンケーキを食べながら、海を眺めていた。
するとヒカルちゃんが、
『ケントさん、明日の仕事は何時からなんですか!?』
「明日は、仕事は無いんだけど、チャンスが新曲を2曲作ったんだ。
その練習が13時から深夜まで有るんだ。」
『新曲かぁ。
私も聴きたいなぁ。
チャンスさんの曲って、独特な雰囲気が有るわよね。
タイトル通りのイメージが、曲を聴いていたら、そのまま伝わってくるし、パワーを感じるの。』
「ヒカルちゃんも、そう感じるんだ!
俺も、以前から思っていたんだよなぁ。
チャンスの作る曲って、不思議と体の中にス~って入ってきて、演奏していても気持ちが良いんだよなぁ。」
『新しい曲、楽しみだね!』
「あぁ、そうだね。」
『そろそろ行きましょうか!?』
と言って、ヒカルちゃんは少しぬるくなったアップルティーを飲み干した。
俺は会計を済ませて、二人でマダムにデザートのお礼を言って駐車場へ向かった。
ここのお店は、若かった頃、親父がフランスから帰ってきて最初にお世話になったお店なんだ。
オーナーシェフの田端さんは、元ヒルトンホテルの中にあるレストランの料理長をしていたそうである。
シナモンケーキが懐かしかったのも、小さい頃、親父が作ってくれたシナモンケーキの味と、同じ味だったからなんだよなぁ。
マダムは、俺の事を白井シェフの息子だって気が付いていたのだろうか……。
さぁ、出発だ!
どこに泊まろうかなぁ……。