自由のギフト
始まりと小さな訪問者
僕が勤めていた工場は配達される商品を梱包し届け先別に分ける作業を行っていた。
作業の流れさえ掴めればこれと言って難しい事もなく、不満も小さい事を気にしなければ全くといっていいほどなかった。
小さい事っていうの、まぁいろいろ小さい事で。
何処にでもあるそんな事、気にしなければとても居心地のいい場所だった。
そしてその日もいつもみたく出社して、遅番との交代時刻になるところだった。
僕は所長に呼ばれ工場の隅に作られた小さなプレハブ小屋の事務所へと向かった。
「失礼します。」
ノックをして部屋へとはいる。
二つ並んだ事務デスク。一方のデスクチェアーを勧められる。
もう一方は所長が座っていた。
「え~と、温井君も知ってるだろうけど、お中元の季節が終わると工場が暇になる。」
「はい。」
「それで、今年は半分の契約社員の契約を更新をしないことに決まったんだ。」
「・・・。」
「それでなんだが、温井君の契約も来月いっぱいで更新しない事に決まった。」
「・・・。」
「まだ温井君は若いし、何処にいったって充分に通用する、それに君さえよければまたお歳暮の時期に短期の募集をかけるから、優先的に働いてもらえる。」
いらないフォローが右から左へと通り過ぎていく。
噂はあった。
だけど、まさか自分が対象になるとは思ってもみなかった。
ニュースや新聞の出来事でしかなくて。
不況ですかこれが。
「そうですか・・・。しょうがないんですよね。」
「会社が決めた事だからね、残念だけど。」
別に仕事にこだわりなんかない、だけどこのリストラ宣告はショックだ、とてもショックだ。
所長もさっきまで顔色を窺ってたのに、どこかやりきった感をかもしだしてる。
言う方も嫌なんだろけど、言われる方が百倍嫌じゃ、あ~鬱陶しい。
「わかりました。つぎの仕事さがします。」
気持ちとはウラハラ落ち込んだ声が返事を返す。
気がついたら身についていた。
我慢なのかな、怒りを悟られないように接する方法。
「うん、頑張って。あっそれと多少だけど退職金でるみたいだから。」
「ありがとうございます。」
僕は立ち上がり軽く頭を下げて部屋を出る。
「失礼しました」。
なんで首になる方が「ありがとうございました」なんていってんだ。
時間差で腹を立たせながら僕は更衣室へと向かうしかなかった。
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