モテ男と地味子の初恋物語
俺を見上げる紬の目が、見る見る潤みだした。

やばい。こいつ、泣くな…

そう思っていると、「ごめんなさい」と言って、紬は俺に背を向けた。

そして走り出そうとした紬の腕を、俺は反射的に掴み、強く引っ張って紬をこっちに向かせた。

紬は目に涙をいっぱい溜めて、「放してください」と言った。

俺は頭に血が上り、考えるより先に紬の腕を引っ張りながら、「来い」と言っていた。

「おい、琢磨…」

たしなめるように声を掛けた圭介に、「俺、次の授業ふけるわ」と言い、紬を引っ張って廊下をズンズン歩いて行った。

後ろから圭介が「どこ行くんだよ?」と叫んだが、それには答えなかった。自分でも、どこへ行くのか分からなかったから。
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