レモンドロップス。

◇悲しい日曜日


「秋の日はつるべ落とし」という言葉を、あたしは子供の頃、「秋の日々はつるべ落とし」と勘違いしてた。

秋の日々はあっという間に過ぎていく、勝手にそういう意味だと思っていて・・・。



でも、その後の日々は本当にあっという間だった。

夢のように素敵な誕生日を過ごしてからの時間。

もしかすると、陽斗と出会ってから一番幸せな時間だったのかもしれない。



陽風はますますお客さんを増やしていった。

それまでの陽風の音楽は、陽斗の歌声が先に立っていて、バンドの音は後からついてくる感じ。

それがある時から、歌声とメロディが一つに溶け合って聞こえてくるようになった。

歌声がメロディと手をつなぎ、ステージを飛び越えて、客席のあたしまで弾むように駆けてくる・・・。


「陽斗、ちょっと大人になったんじゃない?」

浩一郎さんがある時、あたしに笑ってそう言ったことがあった。

「え、そうですか?」

「うん、音楽全体を見渡せるようになったというか、音楽の向こう側を見られる余裕が生まれてきたような・・・。」

音楽の向こう側、浩一郎さんの言葉の意味は良く分からなかったけど、広がりを感じる、素敵な響きだった。

「まあ、彩香ちゃんと付き合いだして、あいつの心にも深みが生まれたってことかな?」

浩一郎さんの珍しくからかうような言葉に思わず赤面・・・。


でもあたしが少しでも陽斗の音楽の力になっているなら、こんなに嬉しいことないな、とちゃっかり思ったり。



そんなほのかな幸せが続くと、あたしはそう信じきっていた。

その時ののん気なあたしのことが、今いとおしくて、少し切ない。



あの日曜日は、そんな秋のさなかにやってきた。

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