レモンドロップス。

「日曜日?」

「そう、前に見たいって言ってた映画が公開になるみたいだよ」


その週の火曜日、あたしは陽斗を映画に誘っていた。

伝説と呼ばれたイギリスのロックバンドのドキュメンタリー、ボーカルが亡くなってから20年目の記念らしいけど、陽斗はしょっちゅうその映画の話をしてた。


「ああ、そっか。あの映画って日曜日に公開か・・・。」

なのに陽斗はなぜか気乗りしない様子。

というか上の空だ。

「どうしたの。なんか用事があった?」

「うん・・・、実はさ」

陽斗はちょっと言いにくそうにチラッとあたしを見た。




「母さんの命日なんだよね」


「えっ?」

ドキッとした。

陽斗が幼いときに亡くなったお母さん・・・。

その死は、陽斗といずみちゃんの生活にも大きな影を落としている。


「そっか、じゃあ法事とかいろいろあるよね・・・、また来週にしよっか」

「ごめんな。あ、でも夕方には終わると思うから、それから見に行こう!」

「え、いいの?でも・・・」

戸惑うあたしに陽斗は明るく、

「バンドの練習も忙しいし、見に行けるうちに行っとかないとな~」



このとき、なんで陽斗は映画に行こうって言ったんだろう。

あたしはいつも、考えても仕方のないことをつい思ってしまう。


陽斗が楽しみにしていた映画の約束があたしたちの運命を変えたんだ。



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