レモンドロップス。
「今年の桜の開花予想が届きました!」
ある夜、家族でご飯を食べていたとき、ニュースキャスターの明るい声に思わず振り返った。
リビングにつけっ放しのテレビでは、気象予報士のおじさんがフリップボードを突き出して解説している。
「今年は冬の寒さが長く続いたため、桜の開花が例年より遅れそうですねえ」
「あら、お花見はまだおあずけですか?」
ニュースキャスターはさっきと変わらない明るい声で尋ねた。
「そうなんですよ。みなさんお花見の場所取りはもう少しお待ちくださいね~。はい、各地の開花予想日はこうなってます」
「今年の冬は寒かったもんね~、雪もけっこう降ったし」
お母さんののん気な声が気象予報士の解説と被さって聞こえてきた。
「また花粉症の季節だなあ」
さらにのん気なお父さんの声。
「あんたなんでそんなに必死に見てるの?」
あ、確かに。
あたしなんで必死に見てるんだろう?
それでも桜の開花ニュースが頭から離れることはなかった。
ご飯を食べている間も、お風呂に入っている間も、ベッドに横になったあとも。
桜の開花は遅れる、かぁ・・・。
そういえば校庭の桜のつぼみもまだ固かった。
枕に頬を押し付けて、目を閉じると鮮やかなピンク色の風景がよみがえる。
花びらの中にいた陽斗。
遠いなあ。
「・・・さみしいなあ」
思わず独り言が口から漏れた。
「さみしいよ」
本当にさみしいとき、気持ちは言葉になってあふれだしてしまうらしい。
あたしはそれを身をもって知った。