三つの月の姫君
「まだ……」


「今夜は新月だというのに。なにか屈託でもあるの?」

 
 青年はじれた様子で唇をとがらす。


「いそがないで……わたし、あなたの名前すらも知らないのよ」



(!)



 ここへ来て重大な問題が発生していた。


「えーと、そうだっけ……」


「はい」


 彼女は端然としてあくまで美しい。


「……ボウイって呼んで、いいよ」


「優しいお名前ですね」

 
 青年は一気に顔を紅潮させ、よそを向きながら、頭をかいた。


「ジー様になってもそう呼ばれるのかと思うと、情けないけれどね」







「大体なんだ。二百年も前からこんなことが続いていたのか? 呪いなんて笑って吹き飛ばせる度胸のあるヤツはいなかったのか」



 と、ミスター、自分を棚に上げ、プレートに犬、と書かれた像を見上げる。そこには一夜を過ごしたフィオナの像が建っていた。



「乙女を傷つけないテクが裏目に出たか。さすがに責任を感じるな。仕方がない、碑名だけでも変えておくか」






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