アトリエの人魚
私はドアノブに手を掛けたまま振り返り、声の主に目をやった。

声の主は、海色のベッドに腰掛け、柔らかな笑みを浮かべて「もぅ帰ってしまうのですか?」と聞いてきた。
その屈託のない爽やかな笑みと、男性なのに中性的な美しさに目を奪われた。

そう…海色のベッドに座る彼はまるで、岩場で休む人魚のよう。

「…人魚だ」
思わず呟いてしまった。

「はい?」彼は首を傾げ、ベッドから立とうとしたので、私は「そこにいて、お願い」と制止して目の前の人魚を見つめ直した。

アーチ型の小窓から射す朝日がキラキラ彼の薄茶色のウェービーな長髪を照らし、神々しささえ感じられる。
唇は程よく厚く、鼻はスッキリとギリシャ神話の神々の様に高い。
大きな目。睫毛は濃く濡れているような艶を発し、瞳は綺麗な赤茶色…瞳の奥は何故か憂いがある気がした。
こんな美しい男性は今まで見たことがなかった。

「止めてごめんなさい。…その、あなたがあまりにも綺麗だったから。人魚に見えて…」

「人魚?僕がですか?…朱鳥さんはユーモアな方ですね」
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