教育実習日誌〜先生と生徒の間〜
二週目・実習九日目

実習生の授業


【菫の実習日誌】


き……緊張する。


あれだけ何度も指導案を頭に叩き込んだし、同じ指導案の授業をもう3回もやったから、多分大丈夫だとは思うんだけど……ガクガクと膝が笑ってる。


山月記の虎男! どうか私の「臆病な自尊心」を笑わないでください。


教科書の挿絵の虎を眺めながら、またまた彼に不満をぶつける私。


だって、ちっとも好みのタイプじゃないんだもん。


家庭的で、私だけを大事にしてくれる旦那様がいいな。


ちらっと教室の隅っこを見ると、先生が真剣な顔で私の指導案を眺めていた。


私の未来の旦那様は、いつでも私を見守っていてくれる。



あ、裕香と渡辺君も見に来てくれたんだ。


二人が指導案を手に教室へ入って、他の先生方に混じるように後ろへ。



先生の隣に、裕香が並んだ。


二人で何かを話して、顔を見合わせて笑っている。



……私の視線に気づいた裕香が、こっそり手を振ってくれた。


教壇にいる私から手を振りかえすことは当然できないので、笑顔で応えようとしたのに。



できなかった。



これは、緊張しているせいだと自分に言い聞かせた。


心の奥に渦巻く、暗い感情を認めない。認めたくない。でも……。



実はどす黒い嫉妬心を抱えた私が、今、初めて虎男に共感できた気がする。


醜い心が「虎」として現れた彼の苦しみと後悔を、少し理解できた。


だって私も、竹林で咆哮する虎に変身してしまうかも知れない。



もし、先生を奪われたら。


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