教育実習日誌〜先生と生徒の間〜
クッションを抱いて、ソファの背もたれによりかかるようにして泣いている。
怒ったり、泣いたり、こいつはこんなに酒癖悪かったか?
「どうした?」
隣に座って頭をなでてやると、弱々しくすすり泣いている。
「……何もかもが嫌になってきたの……」
「何もかもって、具体的に何が嫌なんだ?」
いつもポジティブ・シンキングな菫にしては、珍しい。
不思議に思って尋ねてみると、クッションに顔を埋めたまま、くぐもった声が聞こえた。
「私ひとりじゃ、何にもできないんだなって思ったの。
授業だって、竹森先生が全部つきっきりで教えてくれたおかげ。
もしも私が裕香の立場だったら、途中で丸ごと放り投げてるもん。
裕香の方が、私よりずっとずっと強いし、綺麗だし、何でもできるの。
裕香を見ていたら『虎』になっちゃう自分が嫌!」
「……虎?」
虎、と言えば『山月記』か?
あの虎がどうしたと言うのだろう。
「私の心の中にも、嫉妬に狂う『醜い虎』がいるの。
私は裕香が大好きなのに、嫉妬しちゃうの。
だって……」
それだけ言うと、菫は俺にしがみついて泣きじゃくった。