かくれんぼ
翌朝
夏の日差しが容赦なく部屋に降り注ぎわたしは目をあける

やばい
早く準備しなきゃ

なぜかそう思ったわたしは朝からせっせとお気に入りのワンピースを引っ張りだし
半年ぶりにコテを使って髪を巻きはじめた。
今日はリップもさくらんぼのやつにしようなんて思いながら。蒼、気づいてくれるかな。女の子になったって思ってくれるかな。

支度をしていると下からお母さんの声がして
「お母さんちょっと買い物行ってくるから」
とドアの閉まる音がした。
いちいち言わなくてもちゃんと戸締まりするし
と思って階段を降りていったらチャイムが鳴った。

「鍵でも忘れたー?」
とドアを開けると蒼が立っていた。

「あ、蒼!!え、なんで??」
びっくりしすぎて迎えに来てくれたのを喜ぶより先に生意気なことを言ってしまった。
「行こう」
「や、まだちょっと支度終わってなくて・・・」
「大丈夫、葵は何もしなくても十分かわいいから」
と手を取られ、わたしは何も言えず靴箱の上にあった鍵を握って蒼と一緒に玄関を出た。
昔はお世辞でもこんなこと言わなかったのに、蒼も立派に男の子になったんだなぁと思いながら骨っぽくて少しひんやりした手を握りしめた。


少し歩くと蒼はぱっと手を離して
「あ、ごめん。すごい掴んじゃった。」
と照れ臭そうに謝った。
「もー手痛かった」
なんてわたしはまたかわいくないこと言いながら手持ちぶさたになった手を残念そうに見つめた。

「葵、なんかしたいことある?」
「財布ないし、この辺ぶらぶらしようよ。蒼、久しぶりでしょ?」と気のつかえる女の子アピール。昨日三年ぶりに読んだ雑誌に気のつかえる女の子はいいって書いてあったし。
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