天使と野獣

「京介、父さんは言っておきたい事がある。」



しばらくして、
栄がお茶を入れながら神妙な声を出している。



「何。あ、さっきはありがとう。
やっぱり父さんには叶わないや。

痛かったけど… 今はスッキリしている。」



やっぱり縫い方も影響していたのか、
今はとても軽い気分だ、と
京介は改めて父の偉大さをかみ締めている。



「そうか。あのな、京介、
お前がいくら喧嘩とか空手の試合をしても何とも思わない、
元気なお前を見ているのは嬉しい限りだ。

しかし、今日のような事は止めてくれ。
あの傷を見て父さんは恐ろしくなった。

もしお前に何かがあれば父さんは生きていけない。
少なくとも父さんより先には死ぬな。
それが親子の道理だ。」



いきなり話が飛躍しているように感じるが、
栄の顔は真剣そのものだ。



「そうか… 俺の傷を見てそんな事を思ってしまったのか。
悪かったよ。

分った、父さんを残して死なない。
だけど父さんも俺を一人ぼっちにはしないでくれ。

一人ぼっちになるのは嫌だ。」



と、京介も父の言葉を受けて、
神妙な事を言っている。



「ああ、孤独は辛いからなあ。
しかしお前はわしよりも35歳も若いのだから
わしが先に行くのが道理だぞ。

お前は大人になったら結婚して新しい家族を作れば良いのだ。

わしの家族はお前しか居ないが、
お前はまだこれからの人間だ。

お前が大人になり、もしさくらさんが良いと言えば… 
あの人なら安心だ。」



と、二人の関係どころか、
今年に入って三度は会っている篠原さくら、
彼女の名前を… 

10歳以上の年の差を考えないのか、

さくらの事をすっかり気に入っている栄は、
躊躇無くそんな言葉を出した。
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