天使と野獣
「子供の頃から体が大きくて腕力があったのです。
おまけにすぐかっとなる性格で、
僕にも芳郎と同い年の武則という兄がいるのですが、
子供の頃は二人して芳郎に泣かされていました。
そのせいか、母が兄には剣道、僕には空手を習わせたのです。」
そこまで話すと直道は話す相手が東条京介だと思い出したように
顔を赤らめて苦笑した。
「和美には中学二年の弟もいますが、
光彦はおとなしい奴です。」
と、直道は家族の様子を話している。
「おじさんはお菓子メーカーに勤めているサラリーマンで、
トラブルなど絶対に無縁の人です。
だからトラブルで思い出すのは芳郎だけですが…
僕も昨日のことでは驚いています。
でも、何があっても和美が吉岡を突き落とすと言うことはありません。」
直道はきっぱりと言い京介の顔を見つめた。
やはり全校でそういう噂が広まっているらしい。
俺もそう思う。だから誰か見なかったかを聞いたのだが… 」
その言葉に、改めて直道は不可解な顔をして京介を見た。
空手以外は無関心な東条京介が何故。
今までは道場ですらまともに話をしなかったと言うのに…
こうして会いに来て和美の事を聞いた。
何故だ。
「あの… 京介さんは何故和美の事を… 」
その直道の問い掛けに…
まさか暇だからとは言えない京介、
しばらく言葉を考えているのか真面目な顔をして窓の外へと視線を移した。
が、考えがまとまったのか、
すっきりした顔をして応えた。