天使と野獣

「冬休みの後半に俺と父は北海道へ行き
スキーと温泉で楽しんで戻って来た。

羽田で飛行機を降り品川行きの電車を待っていた。
その時ヘロインの密輸容疑で、
張り込んでいた警察官がミスって容疑者を取り逃がした。

あの時、犯人達は、自分が逃げたいからと、
周りにいた通行人や電車を待っていた人達を無差別に刺して逃げた。

覚えているか。
俺の父もその被害者の一人だった。

あの時は奴らの思惑通りすごいパニックになり… 
犯人を取り逃がしただろう。

病院で父が治療を受けていた時に、
父は軽傷だったと言う事と医者と言う事が分り、
警察官の方からいろいろ話してくれたそうだ。

俺の父は、俺と違って人から信頼されるタイプだからだと思うが… 
その帰りにタクシーの中でその話もしてくれた。

こうしてその中の一つにお目にかかれたということは… 
きっと神が俺に吉岡の無念を晴らしてやれ、と言っていると思う。」



と、どう逆立ちしても、神頼みには無縁のような京介だが、
舌周り良く言葉を出している。


はっきりと警察に、吉岡の無念を晴らす、
などと,突拍子もない言葉まで出している。

京介のその言葉にいち早く反応したのは高木だ。



「東条君。君は受験生だからそんな事は警察に任せなさい。」



とにかく、この東条京介は無口のくせに、
口に出した事は実行するタイプだ。


高木は、そんなヘロインがらみの事を
平気で口にする京介に不安を感じた。

入試だって、到底無理だとは思うが、
まだ結果はでていない。

結果が出るまで不安で落ち着かないのが普通ではないか。


ひとつしか受けていないから… 
多分初めからあきらめているのだろうが… 

だからといって高校生が、
それも全く無関心の東条が、
どこから、吉岡の無念を晴らす、などという言葉が出るのか。


< 51 / 171 >

この作品をシェア

pagetop