疵痕(きずあと)


 筆はある。ナイフもある。


 絵の具を盛りすぎてすぐ駄目にしてしまうパレットだって、木製からベリベリ破いて使い捨てられる紙製に代えた。


 クリーム色の発色塗料だって、キャンバスを買うごとに塗布した。


 だが描くものがない。


 いつまでもキャンバスは課題を写し取っただけのもの。


 劇的なものなぞいつまで経っても出てこない。
 


 その内、筆を刷毛(はけ)に変えた。


 縦横に自由に描いてみる。


 何かの模様ができただけだった。


 (俺に……才能なんか)


 『ならなぜここにいる』


 俺は目の前の絵をたてかけたイーゼルの前にかごんだまま。



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