汝、風を斬れ
近衛――彼は「ジン」とだけ名乗った。
幼少の頃より姫に仕え、歳はセントと同じ、二十。他の名も、家族もこの国にない。そう、城から逃げる途中、月明かりの夜の闇の色をした髪の下で、蒼い目を少し悲しそうに光らせて語った。目つきは優しく、痩身。だが、決して頼りないという印象を人に持たせない、不思議な男だ。
自分に姫様を任せておいて良いのか、とセントは聞いた。城ではあんなにも警戒されていたのに、「姫を頼む」と言われては、何か裏があるような気がしたのだ。しかし、当のジンは伝声機を装着しながら、セントの問いに笑って返した。姫を逃がした時点で立場は同じだろう、と。
ジンはまだ戻る気配はない。彼の帯びていた刀は、東国風の刀身の細いものだった。先のナイフのこと。王女と荷物を抱えながら、セントの駆け足に遅れないで付いてきたこと。それらから推し量るに、彼は相当の手練だろう。
幼少の頃より姫に仕え、歳はセントと同じ、二十。他の名も、家族もこの国にない。そう、城から逃げる途中、月明かりの夜の闇の色をした髪の下で、蒼い目を少し悲しそうに光らせて語った。目つきは優しく、痩身。だが、決して頼りないという印象を人に持たせない、不思議な男だ。
自分に姫様を任せておいて良いのか、とセントは聞いた。城ではあんなにも警戒されていたのに、「姫を頼む」と言われては、何か裏があるような気がしたのだ。しかし、当のジンは伝声機を装着しながら、セントの問いに笑って返した。姫を逃がした時点で立場は同じだろう、と。
ジンはまだ戻る気配はない。彼の帯びていた刀は、東国風の刀身の細いものだった。先のナイフのこと。王女と荷物を抱えながら、セントの駆け足に遅れないで付いてきたこと。それらから推し量るに、彼は相当の手練だろう。