幕末異聞


「またアイツかっ!!」



自室に篭って書類の整理をしていた土方は手にしていた半紙を投げ捨てた。

「はっはっは!!いいじゃないか歳。あの子がよく働いてくれてるという証拠だ!」

隣で茶を啜りながらのん気に笑う近藤の眼前に、十数枚の半紙を無言でグイっと差し出す土方。


「よくやりすぎだろコレ!!!」


土方が差し出したのは、捕り物帳にまとめるための原本だった。そこには、捕縛・粛清した人物の名前や詳細とそれに関った隊士の名前と組番が記されていた。


「ははは…。こりゃすごい」


さっきまでは穏やかに笑っていた近藤の笑顔も流石に引きつった。
差し出された原本の全てに赤城楓の名前が記入されていたのだ。


「そりゃほんの一部だ。まだまだあるぞ?」

「いや、もう結構」

過去の原本を出してこようとする土方を手で制する近藤。

「確かに、ここ数ヶ月のやつの働きは目覚しいものがある。
最近新撰組内で数人長州の間者を粛清したってのに、やつはそれらしき怪しいところも全く出さねぇ」

「おい歳、まだあの子を疑っていたのか?!」

「当たり前だろ!あんな化け物みたいなやつが間者だったらやってられねーよ!だが、流石に山崎君の監視は緩くしたけどな。あいつだけに構ってられるほど観察方はひまじゃねーからな」

「ふむ…。なぁ歳よ、本当はお前ももう赤城君を疑ってはいないんだろう?」


「…」


土方の眉間の皺が影が出来るほど深くなったのをみると、どうやら楓に対する疑いの心は淡いものになっているようだ。


「かっかっか!!さてはお前、赤城君を気に入っているな?」

「なっ!!勝っちゃん!馬鹿言ってもらっちゃ困る!!」

慌てふためく土方を見て近藤は仰け反って大笑いする。

「なはははっ!!かわいい子ほど眼前に置いておきたいものだからな!」

更にからかって見せた。



「その“眼”として使われてたんじゃこっちもええ迷惑ですわ」


どこからとも無く聞きなれた声が二人の耳に届く。

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