アンダンティーノ ―恋する旋律 (短編)
(お兄さんの奥さん!)

 舌先まで出かかっていた「不倫」と
いう言葉を、ユマはなんとかのみこむ。

 しかしテツロウにはその気配が
伝わってしまったようだった。

「ち、違いますよ! 
 
 僕ら、何もありません。

 ほ、本当に何も、ぜ、全然何もないん
ですよ!

 第一、兄とは彼女は二年前に離婚して
いますし。」

 テツロウの声は引っくり返っていたし、
顔はますます赤くなった。

 何もない――でも、好きなんだ。

 あまりにストレートなテツロウの
反応に、ユマは思わず微笑んでしまう。

 彼の気持ちはわかり過ぎるくらい
よくわかった。

 ユマ自身、ずっとハルキのことを思い
続けているのだから。

「その人に会いたいんでしょう?」

 ユマの問いかけに、テツロウは大きく
うなずいた。
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