アンダンティーノ ―恋する旋律 (短編)
「でも一人では無理なのね?

 だから私に……」

 ショウコにもテツロウの姿は見えない
のだろう。

 当然、彼の意思を伝えられるはずも
なかった。

「だけど会えるかもって……居場所を
 知らないの? 

 お兄さんの奥さんなのに?」

「僕の……葬式が終わった後、家を引き
 払ったらしいんです。

 僕もその……死んだばかりだったし、
 ウィーンで事故にあったから、いろいろ
 様子がよくわからなくて」

 テツロウはヴァイオリニストを目指す
音大生で、ウィーン留学中に交通事故で命
落としたのだと言う。

 遺体が日本に戻ったら、彼の魂もこちら
に帰ってくることができたらしい。

「戻ってきてからいろんなところを
 探しました。

 もちろん彼女の実家も訪ねてみたけど、
 どうしてもどこに行ったかわからなくて
 ……行先をきこうにも 誰とも話せ
 ないし」
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