アンダンティーノ ―恋する旋律 (短編)
 思わずテツロウをぶとうとして、ユマ
はあわてて辺りを見回した。

 今の光景を誰かが見ていたら、自分は
完全にアブナイ人だと思われてしまう。

「もうやめてよ!」

「ユマちゃん」

 その時、テツロウの声の調子が
変わった。

 ユマは思わず続けようとしていた文句
をのみこむ。

「ちゃんと告白した方がいいよ」

 テツロウはまっすぐにユマを見ていた。

「告白……しなかったの?」

「したっていうか、しないっていうか、
 微妙だね。

 もとは兄貴の嫁さんだった人だし」

「そうなんだ」

「勇気が足りなくてさ。

 『明日ちゃんと言葉にしよう』って
 思っちゃったんだ。

 でも……明日ってやつは来ないことも
 あるんだよね。

 その時きっちり言わないとだめだよ。

 今はそう思う」

 テツロウの視線はユマから動かない。

 でも本当はもっと遠くを、そしてユマ
ではない誰か他の人を見つめているよう
だった。
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