アンダンティーノ ―恋する旋律 (短編)
(だめ!

 こんなんじゃメロディーは聴こえない)

「ねえ、あなたどうしてこんなこと――」

 ショウコがユマに向かって、怪訝そう
に眉をひそめる。

 当然の反応だ。

 だけど―――。

「テンポ全然合ってない。

 ちゃんと弾いてよ、テツロウさん!」

「テツロウさん? 

 テツロウさんって?」

 すべてが変わったのはその瞬間だった。

 誰かを探すようにショウコの視線が
激しく揺れ、その彼女をテツロウが
いつくしむように見つめる。

 弓はようやく正確なリズムを刻み
始めた。

 澄んだ湖面で踊る光のように、緑の
葉かげからこぼれる木漏れ日のように、
楽しげなメロディーが響いてきた。

「愛の挨拶」だった。

 ショウコの表情が変わる。

 彼女にも聴こえているのだ。

「いるのね……哲郎さんが?」
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