君色ジンジャーティー
そして、お世辞にも広いとは言えない風呂場。
はふぅ。
気の抜けた声が、風呂場にて反響する。
雛子は、某有名女性歌手のデビュー曲を鼻歌で歌っていた。
それは微笑ましい光景である。
シャンプーハットをかぶったままという雛子の姿は、少し間抜けなものであった。
河童みたいだ、そう呟くと、雛子は頬を膨らませて怒り出した。
今度は蛸みたいだ。
雛子が急に、手にボディーソープをかける。
何をする気かさっぱりで、私はただ呑気に明日のことを考えていた。
くちゅくちゅ。
おそらく雛子が泡立てているのだろう。
私は気にも止めず、部活のことを考える。
ああ、十五曲が一曲になったメドレーとか長いんだろうな。
今度友人に音源を落としてもらおう。
その時。
頬に何かが当たってはじけてパーン。
何だかリズムが良さそうな状況。
私は雛子の手元に目をやった。
泡。泡。泡。
そして、ふうふうと一生懸命に泡を吹き飛ばす妹。
眉の上に当たってはじけてパーン。
「ひーなーこー?」
笑いながら睨みつけてやる。
雛子はきゃっきゃっと可愛らしく笑っていた。
可愛けりゃ全てが許されるわけじゃないぞ、我が妹よ。
バシャバシャと水の掛け合い合戦へと発展。
やっぱり、楽しい時間は早く過ぎていくものだ。
扉の向こう側から、母が「そろそろ出なさい」と告げる。
のぼせかけの雛子と戦いで勝利するも体力を消費した私。
熱い体。何故か冷たいジャージ。
きもちいー。いやっふう。
部屋に行くか。
私は何も言わずに部屋へと足を運ぶ。
そんな私の背後で、ぺたぺたと足音が聞こえた。