僕が僕でなくなる前に。
腰まである長い黒髪をなびかせて、無表情のままの君はこう言ったね。


「私の声が聞こえた貴方にお願いがあります。どうか私を助けて下さい」


助ける理由を君は一切言おうとしなかった。

でも、その時の僕には助けるのに理由なんてないと思った。

僕は思わず君の手を握り、走り出す。握った手は氷のように冷たくて。

少し走った所で見つけた古い小屋に君を入れて。

それから僕は君が変な目で見られるのを防ぐ為に、

自ら君のいる小屋に住む事を決意をする。


“少し旅に出ます”


そう皆には嘘をついて、里を飛び出した。

その日見た月はとても丸くて、今思えば悲しげに輝いていた。
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