Time is gone
Case4 源蔵


 ポクッポクッポクッチーン、南妙法蓮華経……。
 妻が、死んだ。去年七十九歳。昨今の平均寿命からすれば、いささかなりとも早い旅立ちだった。元々糖尿病を患っていたため、そう長くはないと思っていたが、それはあまりにも唐突に訪れた。
 ……いや、唐突などではない。あの一件による、過度なストレスを考えれば。妻の命を奪ったのは、心筋梗塞だった。
 八十歳も過ぎれば、死はいつだって隣にある。実際、数ヶ月に一度は、親類やご近所、旧友の死に胸を痛めてきた。わしの番はいつか、順番待ちをしているだけの余命だと分かっていた。それでも妻がわしより先に逝くとは、思ってもいなかった。
「それでは、ご焼香をお願いいたします」
 坊主の声でわしは我に返った。
 いかんいかん、ボーっとしている場合ではない。喪主として、夫として、しっかりばあさんをあの世へ送ってやらねばならん。
 立ち上がり、葬列者に一礼をする。そのとき、わしの胸は痛んだ。息子夫婦が座る横の席が、一つ空席であることに。わざと、空けられていることに……。
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