Time is gone
「……陽子、なのか?」
 男の声は、震えていた。
「昨日の逆転満塁ホームラン、かっこよかったです」
 私はそれだけ言うと、逃げるようにしてその場を去った。背後からは、私を呼ぶ声が何度も響いた。
 陽子! 陽子! 待てよ! 待ってくれよ! ありがとう! そして……ごめんな。
「先輩、謝る必要何て、ないよ。だって先輩は、夢を掴んだんだから。私は、その犠牲に何か、なったつもりはないよ。だから、謝らないで。そして……私だって気付いてくれて、ありがとう」
 これが最後、今日だけは許してあげる、そう私は言い聞かせ、溢れる涙を堪えることなく、駅まで続く道を歩き続けた。
< 246 / 407 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop