Time is gone


 旅行を終え、自宅に戻ったわしは、一先ず胸を撫で下ろした。鍵はちゃんと掛かっており、どこか壊されている気配もなかった。念には念を入れ、家の中を一とおり確認したが、何の異常も見つからなかった。
 一安心したわしは居間に行き、お土産に買ってきた温泉饅頭を眺めた。
「どうやって、切り出せばいいじゃろうか……」
 わしは息子夫婦たちにどう、同居を申し出ればいいかを考え、溜息を吐いた。
今まで再三にわたる誘いを断ってきたため、それを今さら切り出すことに、いささかなりとも躊躇いがあった。お土産の温泉饅頭は、辰雄と景子の自宅を訪ねるための口実だった。
 迷ってなどいられない。そんな時間はない。この心臓も、いつまで持つか分からない。
 わしは立ち上がり、受話器を手にした。
< 296 / 407 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop