Time is gone
「茶化すのは止めて! ……その女の人だけは、止めて」
「だから何のことだよ?」
「諦める気がないなら、諦めさせてあげる」
 そう言って雪菜は、胸に抱いていた封筒を突き出してきた。挑むように伸ばされた腕。だがその目は、初恋の相手にラブレターを渡すときのように、怯えていた。
 開けて、鬼気迫る声に促され、中身を取り出した。そこには束ねれた数枚の写真と、報告書らしき書類の束が入っていた。
「探偵ごっご、ではないな。本物を雇ったのか……」
 俺の声は震えていた。それは怯えではない。その行動力に感服していたのだ。
 まさかここまでするとは、夢にも思わなかった。そこまでして俺のことを……、愚かな女だ。
 俺は写真の束の、一番上のそれを見た。そこには、梨花の店から出てくる己の姿が映されていた。そして次のそれには、銀座で待ち合わせしている姿が、梨花と二人、銀座を歩く姿が、レストランに入っていく姿が映されていた。
 これが証拠? 笑わせるな。探偵も名ばかりだ。浮気の証拠というのは、ラブホテルに二人で入っていくような写真をさすのだ。もちろん、そんなものが撮られるはずもない。そういう事実がないのだから。
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